Blue hour

夜と朝の狭間

白昼夢だったらどんなによかったかしれないもの

「部活で指を切断した」

 

これから今日が始まるという時

All of My Life』を入れて聴いてた私に母から電話がきた。

救急車で運ばれた中1の妹。部活はバレー部。

 

左親指がちぎれ、潰れてる状態。

緊急ヘリで違う病院に移った。

 

妹は泣き腫らした目で「先輩に申し訳ない

「皆に迷惑かけた」と言っていた。

 

状況を詳しく聞いたら ピアスひとつあけるにしろ

「傷ひとつつけないように育てたのに

と悲しむような母は泣き出し、私はただ隣にいた。

 

顧問の先生は椅子に寝そべり待っていた。

 

まず口から出た言葉は保身を並べ立てたものだった。

母は今にも叫ばんばかりだった。

私は昔お世話になった先生を見ながら

冷静に、冷静に、冷静に、処理した。

心臓は張り裂けそうだった。

 

 

妹が手術室に入り、脱力のみが漂う病室で2人待った。

耐えきれず 心優しい友達に連絡したりして

なんとか救われ

数時間後、病院内のコンビニで買ったものを

ひとりモゾモゾと食べていた。

 

頭も体も冷え切ってて

ふと夏の光がこいしくなって 足はどこへともなく向かっていた。

 

イヤホンを耳にして今朝の曲を流した。

数歩あるいて涙が伝うのを感じた。

大通りで泣くのはどうかと公園に続く階段を登っていたはずだった。

次の瞬間には手すりに突っ伏して嗚咽もらして泣いていた。

 

途中、大丈夫ですか ときかれてもろくに返事できなかった。

顔を覆ってずっと俯いた。

手を伝って鼻水と涙が垂れた。

泣く練習をするべきだった。

どうしてこんなに泣くのが下手なんだろう。

自分の声じゃないみたいで。

いい歳した女がグチャグチャに泣いているんだ。

意味がわからない。

フラフラとよくわからないえづきもらしながらベンチに座った。

蝉の音がワンワン反響した。

 

 

他の人にはわからない

 

「命があるだけましだ」

「指一本の先じゃないか」

「何をそこまで大袈裟に嘆くんだ」

 

あの子は私に背が追いついてきてるのに

手は相変わらず小さいままなんだ

あの子の指は赤ん坊のころと私にとってかわってないんだ

自分の指と成長してきたんだ

 

一緒にピアノ弾いたんだ

私が伴奏した学年とあの子は一緒だ

伴奏やろうかなって話してたのに

 

手を繋いだんだ

指相撲たったり遊んで

 

一緒に生きてきたんだ 

あの子の指は私の指だ

私の指なんかより遥かに大事だ

私の爪を剥いでもまた生えてくる

でもあの子は二度と動かせるかわからないんだ

 

どうして

どうしてあいつの指じゃない

私の指じゃないんだ

 

私は知ってたはずだった。

ちょうどあの子と同い年頃読んだ。

17歳のエンディングノート

 

「(災難が) 私である理由もなければ

私でない理由もない」

 

そういう考えを知っていた。

でも納得できないんだ、受け入れられないんだ どうしても

 

事故原因なんてどうでもいい

誰が悪いかなんてどうでもいい

三年見送りがなんだ

どうでもいい どうでもいい どうでもいい

 

そんなの本当にどうでもいいんだ

 

こんな姉にもしっかり向き合ってくれる

皆に愛される

私の世界でいちばん大切な女の子の

親指が切断したんだぞ

手術してんだぞ

二度と動かないかもしれないんだぞ

それが全てだ

 

悔しい 悔しい 悔しい 悔しい 悔しい

 

 

怒りが噴き出て噴き出て涙になって流れて止まらなかった

 

 

見上げると真っ青な夏空があった。

真っ青。突き抜ける、快晴。

 

雲が動いている。

 

なぜ動いてるんだ。

 

 

私と、私の大切な人に

どんな耐え難い苦しみが起きようと

 

空は青いし 雲は流れるし 地球は回るし

蝉は鳴くし 夏の陽は照りつける

 

それが本当に 悔しくて 悲しくて たまらなかった

 

なんで  なんで  と延々泣いていた

 

木漏れ日と私の髪だけが揺れてた

 

 

死なんて私には早い

 

受け止めるにはあまりに早いと実感した

 

大切な人の死  受け止めきれない

 

キムテヒョン

 

私はまだあなたのように強くはなれない

 

ただ今夜は泣いてくれ

 

遥かに強くて 遥かに優しいから

 

私は「あーそこらへんフラフラしてたわ!^^」で通ったけど

7人のもとであなたは声の限り泣いてくれ

 

助けることはできなくても  力になることができるから

 

世界は止められなくても  あなたは彼らの世界だから